「任せる」と「丸投げ」は何が違う?藤田晋氏の会話術を、AIスタートアップのインターン生が読み解く

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Kohei Uesugi

Kohei Uesugi

株式会社Moji ビジネス開発・コンテンツマーケティング担当 鹿児島県出身。大学2年次から複数のスタートアップで長期インターンを経験し、営業・事業開発と0→1の立ち上げに携わる。2026年9月より、生成AI特化の開発会社・株式会社Mojiに参画。AI開発プロジェクトの事業開発と運営体制づくりを担当しながら、自社メディアのコンテンツ運用をリードしている。

「自由にやってみて」と言われて、逆に手が止まった経験はないでしょうか。

先日、X上で「藤田晋流 部下のやる気を引き出す会話術」という投稿が話題になっていました[元投稿]。サイバーエージェントの藤田晋氏のコミュニケーションを、心理学の理論とあわせて3つのポイントに整理したものです。

私は今、生成AIの開発会社・株式会社Mojiでインターンをしています。「任される側」として働いている立場から、この3つのポイントを読んで共感したこと、そして一つだけ付け加えたいことを書きます。

この記事でわかること

  • やる気を引き出す上司の3つの関わり方(元投稿の整理)
  • 「任せる」と「丸投げ」を分けるもの
  • 人への任せ方が、AIへの任せ方と同じ形をしている理由

※元投稿は藤田氏本人の発言ではなく、投稿者が藤田氏の考え方を整理したものです。本記事では、元投稿の整理を紹介したうえで、筆者の考えを述べます。

1. Visionと「今日やること」はセットで渡す

元投稿の1つ目は「夢を語らない上司になる」という考え方です。

「綺麗事ではなく、目の前のリアルな数字と課題から入る。」

元投稿はその背景として、対人コミュニケーションの「期待違反理論」を挙げています[注1]。人は相手の行動に期待を持っていて、そこから外れた行動が起きたときに、その意味を評価し直すという考え方です。元投稿はこれを職場に当てはめ、「壮大な夢を語って期待を上げすぎると、現実とのギャップで失望につながりうる」と説明しています。

ただ、Visionが不要というわけではありません。サイバーエージェント自身も「21世紀を代表する会社を創る」というVisionを掲げています。

インターンとして働いていても、「この会社は何を目指しているのか」「自分の仕事は何につながっているのか」が分かっていると、日々の作業の意味を理解しやすくなります。

一方で、Visionだけでは動けません。「世界を変える会社をつくろう」と言われても、今日自分が何をすればいいかは分からないからです。

だから必要なのは、

  • 今回の仕事で何を達成するのか
  • どの数字を見ればいいのか
  • 何をもって完成とするのか

という具体的なゴールです。

大事なのは「Visionか数字か」の二択ではなく、Visionで方向を示し、具体的なゴールで日々の行動につなげることだと思います。

Vision、今回のゴール、今日やることの3段階を示す図。Visionを具体的なゴールに分解し、今日やることは本人が決める
Visionだけでは今日の行動は決まらない。ゴールまで分解して渡し、「今日やること」は本人に決めてもらう

2. 答えを渡さず、考える余白をつくる

2つ目は「答えを言わずに、考えさせる」です。

「やる気は与えるものではなく、出てくる環境を作るもの。」

背景にあるのは、Edward L. DeciとRichard M. Ryanの「自己決定理論」です[注2]。人が意欲的に動くための基本的な心理欲求として、次の3つを挙げています。

  • 自律性:自分の意思で行動していると感じられること
  • 有能感:自分にはできると感じられること
  • 関係性:周りの人とつながっていると感じられること

サイバーエージェントの「あした会議」(社員が新規事業や組織課題の解決策を考え、経営陣に提案する場)や、若手に「自分で考え、自分で決めて、自分でやる」ことを求める育成方針にも、この考え方が表れています[注3]。

私自身、指示された作業をこなすより、自分で考えたアイデアが形になる仕事のほうが、「これは自分がつくった」という実感があります。その達成感が、次の仕事の原動力になります。

ただ、ここで一つ疑問があります。「自分で考えさせる」ことと「すべてを任せる」ことは、同じなのでしょうか。 これは第4章で考えます。

3. 失敗を「責める場」ではなく「改善を考える場」にする

3つ目は「取り調べにしない」です。たとえば面談で、

「10点満点で、今の自分は何点?」

と聞きます。「なんでできなかったの?」と問い詰める代わりに、本人に現在地を評価してもらうことで、責める会話を改善を考える会話に変えるという方法です。

関係するのが、Amy C. Edmondsonらが研究してきた「心理的安全性」です[注4]。チームの中で質問したり、ミスを認めたり、助けを求めたりしても、不利益を受けないと感じられる状態を指します。

注意したいのは、心理的安全性は「失敗しても何も言われない環境」ではないことです。失敗や分からないことを隠さずに出し、そこから改善につなげられる環境のことです。

失敗を強く責められる環境では、「完成度の高いものしか出せない」というプレッシャーが生まれます。すると「まだ見せないでおこう」「質問するのが怖い」となり、フィードバックをもらう機会が減ってしまいます。

「10点満点で何点?」という質問はこの点でよくできています。本人が「6点」と答えれば、

  • 「残りの4点は何だと思う?」
  • 「8点にするには何が必要?」

と、自然に次の一手の話になります。会話の主役が部下の側に戻るのです。

「10点満点で何点?」から始める面談の3ステップの図。自己評価、足りない部分の言語化、次の一手を決める流れと、取り調べ型・改善型の比較
「なんでできなかったの?」ではなく「何点?」と聞く。それだけで、会話が反省から改善に変わる

4. 「任せる」と「丸投げ」は違う

3つに共通しているのは、上司が外から動かすのではなく、部下が自分で考えて動ける環境をつくることです。

そのうえで一つ付け加えたいのは、主体性を引き出すのに必要なサポートの量は、人と仕事によって違うということです。

経験があって「こうしてみたい」というアイデアがある仕事なら、大きな裁量をもらったほうが動きやすい。でも初めての仕事では、ゴールも、何を調べればいいかも、完成形も分かりません。その状態で「自由にやってみて」と言われても、主体性より不安のほうが大きくなります。

これは自己決定理論とも矛盾しません。理論が挙げる欲求は自律性だけでなく、「自分にはできる」という有能感も含んでいるからです。つまり、自律性を与えることと、必要なサポートを与えることは両立します。

たとえば上司が、

  • 「この仕事のゴールはここ」
  • 「最低限、この条件は守ってほしい」
  • 「そこから先のやり方は自分で考えてみて」

と示せば、方向を見失わずに、自分で考える余地も残せます。経験を積んで判断できる範囲が広がれば、示す道筋を少しずつ減らしていけばいい。

経験の浅い人には道筋を示し、自走できる人には大きく任せる。大事なのは裁量を増やすことそのものではなく、その人が動けるだけの「裁量」と「支援」を組み合わせることだと思います。

仕事の経験の有無と支援の多さで分けた2×2の図。初めての仕事には伴走、経験のある仕事には任せるのが適切で、逆にすると丸投げや過干渉になる
必要な支援の量は、その仕事の経験値によって変わる。経験を積むほど、示す道筋を減らしていく

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5. 実は、AIへの仕事の頼み方も同じ

Mojiで働いていて気づいたのは、ここまでの話が、AIに仕事を頼むときの考え方とほとんど同じだということです。

AIエージェントに仕事を任せるとき、うまくいくのは「ゴール」と「守るべき条件」をはっきり書き、手順を細かく指定しすぎない頼み方です。反対に、ゴールを書かずに「いい感じにして」と頼むとAIは迷走しますし、手順を一行ずつ指示すればAIに頼む意味がなくなります。人に対する「丸投げ」と「過干渉」と同じ構図です。

部下への頼み方とAIエージェントへの頼み方を左右に並べた図。どちらも「ゴール」「最低条件」「やり方は任せる」の3点が共通している
ゴールを示し、最低条件を決め、やり方は任せる。人に任せるときも、AIに任せるときも同じ3点が効く

さらに、AIにも「任せてはいけない操作」と「人の承認を挟む場面」を決めておく必要があります(詳しくはAIエージェントはどこまで任せるべきかで解説しています)。どこまで任せ、どこで支えるかを見極めるのは、相手が人でもAIでも変わりません。

Mojiの仕事は、企業がAIに「どこまで任せ、どこで人が支えるか」を設計することです。同じ考え方で、社内の人の任せ方も設計している。インターンとして働いていて、そう感じています。

まとめ:いい上司は「何もしない上司」ではない

元投稿は最後をこう締めくくっています。

「部下が自分で動く隙間を、黙って空けておけることだ。」

熱い言葉でやる気を注入するのではなく、自分で考え、動き、結果から学べる余白をつくる。ただし、その余白は全員に同じ大きさでいいわけではありません。歩けるところは任せ、迷っているところでは方向を示し、経験に合わせて任せる範囲を広げていく。

主体性を引き出す上司とは、何もしない上司ではなく、「どこまで任せ、どこで支えるか」を見極められる上司なのだと思います。


注釈・参考文献

[元投稿]X @kaigoyametai1

「資産730億・藤田晋流部下のやる気を3倍引き出だす会話術」

2026年8月4日投稿

※タイトルは元投稿のまま記載(本文では数値表現を使用しない)

[注1]期待違反理論(Expectancy Violations Theory):Judee K. Burgoonらが発展させた対人コミュニケーション理論。相手の行動への期待と、そこから外れた行動がどう評価されるかを扱う。

[注2]自己決定理論(Self-Determination Theory):Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). "Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being." American Psychologist, 55(1), 68–78.

[注3]株式会社サイバーエージェント「あした会議」および若手育成に関する公式発信

[注4]心理的安全性(Psychological Safety):Edmondson, A. (1999). "Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams." Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.

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